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仙台高等裁判所 昭和63年(行コ)2号 判決

控訴人

鈴木博(X) (ほか三八名)

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

武藤正隆

平井和夫

被控訴人

福島県知事(Y) 佐藤栄佐久

右指定代理人

中條隆二

及川正宏

門沢彰

管野健

笹島敏

理由

一  当裁判所の判断は、控訴人らの当審における主張につき、後記二ないし四のとおり判断をし、次のとおり補正するほかは、原判決理由説示のとおりであるからこれを引用する。

1  原判決一二枚目表一一行目を次のとおり改める。

(一)  控訴人安記、同幸雄、同孝雄以外の控訴人らについては、請求原因1及び2の事実につき争いはない。

(二)  控訴人安記、同幸雄、同孝雄につき、被控訴人は本案前の主張をするのでこの点につき判断する。

(1) 控訴人安記

被控訴人が、〈1〉昭和五五年四月二二日付けで佐藤隆記の父である控訴人安記を相手方として、一六筆の本件従前地につき一時利用地変更指定処分を行い、次いでこれらの土地のうち福島県安達郡大玉村大山字山下一二番一の一筆を除く一五筆の土地について、同五六年三月三一日付けで換地計画変更決定処分を行い、さらに右一五筆の土地について同年六月一九日付けで本件処分を行ったこと、〈2〉大山字山下一二番一の一筆の土地について、佐藤隆記の祖母である佐藤ハシメを相手方として、同年三月三一日付けで換地計画変更決定処分を行い、同年六月一九日付けで本件処分を行ったこと、〈3〉右一五筆の土地については控訴人安記が、右大山字山下一二番一の一筆の土地については佐藤ハシメが、同五五年一一月一〇日、佐藤隆記に贈与し、同五六年三月一三日にその旨の登記を経由していること、〈4〉控訴人安記は、同年一月一六日に右一時利用地指定処分の取消を求める訴え提起し(この事実は当裁判所に明らかである。)、同年九月二八日、右一時利用地指定処分取消しの訴えを右換地計画変更決定処分取消しの訴えに変更し、さらに同五七年一月二五日、右換地計画変更決定処分取消しの訴えを本件処分取消しの訴えに変更したことは当事者間に争いがない。

また、〔証拠略〕によると、被控訴人は、同年一一月九日、前記一五筆の土地について控訴人安記及び佐藤隆記の同意を得たうえ、本件処分の通知の相手方を控訴人安記から佐藤隆記に、前記一筆の土地についても、佐藤ハシメの同意を得たうえ、本件処分の通知の相手方を佐藤ハシメから佐藤隆記に、それぞれ変更する変更換地計画決定処分を行ったこと、控訴人安記、佐藤ハシメ、佐藤隆記の住所は同一であることが認められる。

右事実によると、佐藤隆記は、本件従前地につき、同五六年三月三一日には、控訴人安記及び佐藤ハシメから贈与を受けてその旨の登記を了していたものであり、換地処分は、これにより、土地に関する所有権その他の権利関係を確定し、さらに、清算金に関する権利義務を設定する行政処分であるから、真実の権利者に対してなされることが必要であり、控訴人安記及び佐藤ハシメに対する本件処分は換地処分の相手方を誤ったものである。しかしながら、控訴人安記は佐藤隆記の父であり、佐藤ハシメは祖母であり、住所を同じくしていたものであるから、佐藤隆記は、控訴人安記及び佐藤ハシメに対し本件処分がなされた同年六月一九日ころ、右処分にかかる通知を知ったものと推認できる。そして、被控訴人は、同五七年一一月九日、本件処分の通知の相手方を、前記一五筆の土地について控訴人安記及び佐藤隆記の同意を得たうえ、控訴人安記から佐藤隆記に、前記一筆の土地についても、佐藤ハシメの同意を得たうえ、佐藤ハシメから佐藤隆記に、それぞれ変更する変更換地計画決定処分を行っていることも併せ考えると、本件処分は佐藤隆記に対してなされたものと認めるのが相当である。したがって、控訴人安記は、本件処分当時、権利者ではないのであるから、その取消を求める原告適格はない。

なお、佐藤隆記は、訴訟の承継の申立てをするが、右は当然承継の申立てであるところ、右承継の原因たる事実は従前地の譲渡にかかるものであるから、参加承継の申立てをすべきであり、右当然承継の申立ては理由がない。

(2) 控訴人幸男

〈1〉被控訴人が、昭和五五年四月二二日付けで高嶋新一の父である控訴人幸男を相手方として、三一筆の本件従前地につき一時利用地変更指定処分を行い、次いでこれらの土地のうち同五六年三月三一日付けで、福島県安達郡大玉村大山字並柳一四六番の一筆を除く三〇筆の土地について高嶋新一を相手方として換地計画変更決定処分を、大山字並柳一四六番の一筆の土地について控訴人幸男を相手方として換地計画変更決定処分をそれぞれ行い、さらに同年六月一九日付で右三〇筆の土地については高嶋新一を相手方として、右一筆の土地については控訴人幸男を相手方として、それぞれ換地処分を行ったこと、〈2〉右三一筆の土地のうち、別紙一のとおり大山字北西町四六番一他七筆は、昭和四四年二月一〇日に高嶋ハルが高嶋新一に贈与し、同年三月二四日その旨の登記を了し、大山字北西町三六番他一筆は、同五一年二月五日、鈴木康森から交換により高嶋新一が所有権を取得し、同年二月一四日その旨の登記を了し、大山字神王四番一他一九筆は同五三年一〇月三〇日、控訴人幸男が高嶋新一に贈与し、同五四年七月五日その旨の登記を了したこと、〈3〉控訴人幸男は、同五六年一月一六日に右一時利用地指定処分の取消を求める訴え提起し(この事実は当裁判所に明らかである。)、同年九月二八日、一時利用地指定処分取消しの訴えを右換地計画変更決定処分取消しの訴えに変更し、さらに同五七年一月二五日、右換地計画変更決定処分取消しの訴えを本件処分取消しの訴えに変更したことは当事者間に争いがない。

右事実によると、控訴人幸男は、大山字並柳一四六番の一筆以外の三〇筆の土地については、本件処分の名宛人となる資格を喪失しており、同五六年九月二八日付けの右訴え変更の時点で既に原告適格を欠いていたといわざるを得ず、右三〇筆の土地についての訴えは不適法である。

なお、控訴人幸男は、被控訴人の右原告適格を欠いている主張は時機に遅れたものであると主張するが、そもそも、原告適格の有無は職権調査事項であり、民訴法一三九条の適用はないと解されるから、控訴人幸男の右主張は失当である。

さらに、高嶋新一は、右贈与による取得等を理由として訴訟承継の申立てをするが、右承継の原因たる事実は訴訟の係属前に生じているものであり、かつ、右は当然承継の申立てであるところ、右承継の原因たる事実は従前地の譲渡にかかるものであるから、右当然承継の申立ては理由がない。

(3) 控訴人孝雄

〈1〉被控訴人は、昭和五五年四月二二日付けで控訴人孝雄の父である亡寅松を相手方として、三六筆の本件従前地につき一時利用地変更指定処分を行ったこと、〈2〉別紙二記載のとおり、亡寅松が控訴人孝雄に対し、福島県安達都大玉村大山字象目田四番三他三四筆を同年五月一〇日に贈与し、同年六月九日その旨の登記を了し、大山字象目田三七番二の土地を、同月一八日に贈与し、同年七月一日その旨の登記を了していること、〈3〉亡寅松は、同五六年一月一六日に右一時利用地指定処分の取消を求める訴えを提起し(この事実は当裁判所に明らかである。)、同年九月二八日、一時利用地指定処分取消しの訴えを右換地計画変更決定処分取消しの訴えに変更し、さらに同五七年一月二五日、右換地計画変更決定処分取消しの訴えを本件処分取消しの訴えに変更したことは当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によると、被控訴人は控訴人孝雄を相手方として、右三六筆の土地について、同五六年三月三一日付けで換地計画変更決定処分を、さらに同年六月一九日付けで本件処分を行ったことが認められる。

右事実によると、亡寅松は、本件処分の名宛人となる資格を喪失しており、同五六年九月二八日の右訴え変更の時点で既に原告適格を欠いていたといわざるを得ず、亡寅松の本件処分取消しの訴えは不適法である。

なお、控訴人孝雄は、当審弁論終結時までに、原告適格について適式に補正がなされたと主張する。しかしながら、本件記録によると、亡寅松は昭和六一年二月二五日に死亡したため、控訴人孝雄は、平成二年八月一三日、訴訟承継の申立てをしたもので、この申立て自体は理由があるが、控訴人孝雄は、亡寅松の不適法な訴訟状態を承継したものであって、原告適格を欠く訴訟であったことの瑕疵は治癒されていない。

2  同一四枚目表五行目の「第八二」を「第八一」と改め、同行目の「第八四号証、」の次に「第八六号証(原本の存在とも)」を、同六行目の「その方式」の前に「第八号証」を、同一一行目の「第八五」の前に「第八〇号証、」を各加え、同一五枚目表四行目の末尾に次のとおり加える。

控訴人らが右事業計画に賛成したのは次の事情があった。すなわち、控訴人らが従前地を有する本件地区は、昭和三七年頃、農地を交換分合し、その際測量をしたところ縄延びがあった。このため、従前地の地積の基準を登記簿面積とされたのでは、本件地区の権利者の不利益が生ずるため、同四三年九月六日、本件地区の権利者は大玉村村長に対して、同地区の権利者の従前地を実測することを申し入れた。これに対して、同村長は、同月七日付けで、「換地については、原則として、土地台帳面積であるが、農地の交換分合を施行した椚山地区の特殊事情を認め、実施に際しては交換分合による格差是正を特に配慮する。」旨の回答をした。この回答により、本件地区の権利者は、従前地の縄延びにつき格差が是正されることを期待して右事業計画にほとんど同意した。控訴人らのなかでは、控訴人酒井幸一、同佐藤一郎他二名が右事業計画に同意をしなかったが、他の控訴人らはこれに同意をした。

3  同一一行目の「事業施行総面積」の前に「その目的として、事業施行地区内の小区画で錯雑し分散した耕地形状を農業経営の近代化の要件を具備した大ほ場に整備し、素堀で蛇行が甚だしい水路を完備した用排水路とすることなどが掲げられ、」を加え、同裏一一行目末尾に次のとおり加える。

なお、大玉村村長は、前記のとおり、本件地区の権利者に対して、事業計画において換地計画の基準地積を登記簿面積によることとされたことから生ずる格差の是正を配慮すると約束をしたため、格差是正の前提となる本件地区の権利者の従前地の実測面積を把握しようとした。しかし、本件地区の対象面積が約百二十町歩と広範囲に及び、実測するとすると日数・費用がかなりかかるため、地均図(一〇〇〇分の一)を基に、本件地区の権利者に実測地積を申告させるよう試みた。しかしながら、右図面では、各権利者の土地の特定が困難であり右方法は頓挫した。このため、大玉村村長は、右権利者のうち従前地の登記簿面積と実測面積が著しく異なるものについては、本件事業協力会役員、本件事業推進委員がその実体を調査し、本人ともどもその旨の申立てをさせ、換地委員に対して一時利用地、換地の配分割合につき配慮するように指導した。事実、四、五名ほどの者についてはこのような取扱がなされた。

4  同一六枚目表末行から同裏一行目にかけての「一〇二・五八」を「一〇二・七五」と改め、同行目の末尾に「なお、本件地区の登記簿面積に対する換地率は一〇一・八八であり、他地区は一〇〇・〇六である。」を加え、同一八枚目裏九行目の「約六・八ヘクタールであった。」を「約六・八ヘクタールであり、換地交付基準地積の一二〇パーセントを超えて換地を受けた右一一名の者の従前地より多く受けた換地面積は約三・七ヘクタールである。」と、同一〇行目の「道路用地」から同一九枚目表五行目末尾までを「道路用地の買収代金のうちから、一反当たり一一六万円を提供して一億六〇〇〇万円を本件事業の工事費に充当する金額とした。右資金は、当初大玉村村長の名前で預金されていたが、その後村会議員、被買収者、換地委員長らで構成する資金管理委員会が管理し、毎年、工事終了後に被買収者に対してなされるであろう特別配分、特別換地の面積を勘案して工事費に充当されてきた。」と各改める。

5  同裏三行目の「しかし、」の次に「本件地区に縄延びがあったことは認められるが、二〇パーセント以上の縄延びがあったか否かについては、」を加え、同二〇枚目裏二行目の「認定のとおりであり、」を「認定のとおりである。」と、同行目の「地方換地」から同九行目末尾までを次のとおり各改める。

ところで、土地改良事業を施行するについては、従前地の実測面積が判明している場合はこれを基準としてその計画、処分を行うので合理的である。しかし、実測面積が判明していない場合、これを把握することは、その施行地域が広範囲である場合等においては、莫大な費用と労力を必要とし、また、計画の実施を著しく渋滞せしめる。また、法五三条一項二号は「当該換地及び従前の土地について、省令の定めるところにより、それぞれその用途、地積、土性、水利、傾斜、湿度その他の自然条件及び利用条件を総合的に勘案して、当該換地が照応していること」と定めており、地積は総合勘案されるべき一要素であり、独立かつ必須の要件とはされていないと解される。しかして、本件事業は、事業施行総面積は七九六・六ヘクタール、第三工区の総面積は三一九・二ヘクタールと広範囲にわたるものであり、従前地の実測面積も判明していなかったものであるところ、本件事業においては、従前地の地積については、事業計画の概要の段階で昭和四四年一一月三〇日現在の登記簿面積を基準とするとされており、事業参加資格者のうち九二パーセントがこれに賛成していたこと、本件地区の権利者は従前地を実測することを要求したが、大玉村村長により格差是正に努力するとの回答により右公簿面積を基準とする事業計画の概要に大多数が同意したものであること(控訴人らのうちでは控訴人酒井幸一、同佐藤一郎他二名が同意をしなかったが他の者は同意をしている。)、本件事業の委託を受けた大玉村村長は本件地区の権利者のうち従前地の登記簿面積と実測面積が著しく異なるものについては、換地委員に対して一時利用地、換地の配分割合につき配慮するように指導して、本件事業を進めたこと、本件地区の登記簿面積に対する換地率は一〇一・八八であり、他地区は一〇〇・〇六であったことが認められ、このような事情がある場合、同年一〇月一日の登記簿上の地積を換地計画における従前地の地積としたことに違法性はない。

6  同一一行目の「一〇二・五八」を「一〇二・七五」と、同二一枚目表八行目及び同九行目から一〇行目にかけての「平等」を「公平」と各改め、同末行の「換地工区」の前に「当該換地及び従前地についての用途、土性、水利、傾斜、湿度その他の自然条件及び利用条件を総合的に勘案して、」を、同行目の「換地」の次に「地積」を各加える。

7  同二三枚目表五行目の「また」の前に「なお、右清算金のほか、道路用地の被買収者は、買収代金のうちから、一反当たり一一六万円を提供して一億六〇〇〇万円を本件事業の工事費に充当する金額とし、右資金は、毎年、工事終了後に被買収者に対してなされるであろう特別配分、特別換地の面積を勘案して工事費に充当されてきた事情も認められる。」を加える。

8  同二四枚目表五行目冒頭から同裏六行目の「照らして、」までを「控訴人らが従前地を有する本件地区は、昭和三七頃、農地を交換分合し、その際測量をしたところ縄延びがあったこと、このため、従前地の地積の基準を登記簿面積とされたのでは、本件地区の権利者に不利益が生ずるため、昭和四三年九月六日、本件地区の権利者は大玉村村長に対して、同地区の権利者の従前地を実測することを申し入れたこと、これに対して、同村長は同月七日付けで、換地については原則として土地台帳面積であるが農地の交換分合を施行した椚山地区の特殊事情を認め、実施に際しては交換分合による格差是正を特に配慮する旨の回答をしたこと、同村長は、右格差是正の前提として本件地区の実測面積を把握しようとしたことが前記のとおり認められるが、同村長が格差是正の配慮以上に本件地区を独立の換地工区として扱い、従前地の地積は実測面積を基準とすることを約したものであったとすることは、同村長が明確に換地については公簿面積よる旨回答していることから認められず、」と改める。

9  同二七枚目裏三行目の「原本の存在とその成立に争いのない」を「前掲」と改め、原判決別紙換地明細書の「鈴木貞蔵」「鈴木正弥」「渡辺正」の各欄を削る。

二  控訴人らの意思に関係なく本件従前地が道路用地の被買収者に譲渡されたとの主張について

控訴人らは、従前地所有者の意思と関係なくその財産が被買収者に譲渡されたことの違法は清算金の徴収や事業費の負担、被買収者の換地交付基準地積より多く受けた換地面積の割合が第三工区の総面積と比較して少ないとの事情があっても変わりがない旨主張する。

しかしながら、本件のように小区画の錯雑した耕地を大ほ場とし、用水路の整備をも目的とした区画形質の変更を伴う土地改良事業においては、農用地の集団化あるいは区画の大きさ等の関係から権利者の従前地の地積がそのまま換地に移行することは考えられず、換地の割当につき権利者間にある程度の不均衡が生ずることは止むを得ないところである。法は、特定の権利者の従前地と換地後の土地につき、その財産上の権利を保持するため照応の原則によることを定めているのであるが、右照応の原則は、従前地とその換地が、用途、地積、土性、水利、傾斜、湿度その他の自然条件及び利用条件を総合的に勘案して、照応していること(法五三条一項二号)を要求しているに止まり、地積は右総合勘案されるべき一要素に過ぎない。そして、各権利者につき右照応の原則によって換地しても、不均衡か生じた場合は、法は金銭で清算することを規定している(法五三条二項)。もっとも、地積について、換地交付基準地積に比較し、増減の割合が二割未満であることを要求しているが(法五三条一項三号・土地改良法施行規則四三条の七。特別換地はその例外をなす。)、右二割の範囲内で減少した者と同様の範囲内で増加した者が存在することは、法の許容するところであり、右不均衡は公平の原則に反しない限り違法ではなく、減少した権利者の土地を勝手に増加した者に処分したことには当らない。本件道路の被買収者のうちには、右二割の範囲を超えて換地が増加した者もいるが、右は法で認められた特別換地の手続きを取ってなされ、かつ本件処分を認容する議決が権利者会議において行われているのである。そして、右公平の原則を考えるうえで、被買収者のうち換地交付基準地積より多く受けた換地地積が工区全体の面積の割合のどの程度であるか、清算金の徴収や事業費の負担がなされるかを考慮することは意味があることである。控訴人らの主張は採用できない。

三  他事考慮の禁止の原則違反による裁量権の濫用について

本件処分をなすにつき、被控訴人が、道路用地の被買収者に対して、買収された土地の面積を考慮したことは前記認定のとおりである。ところで、換地処分は、換地計画に基づくものであるが、耕作又は養蚕の業務を営む者の農用地の集団化その他農業構造の改善に資すること(法五二条三項)、所有者その他の権利者の権利を減少させないこと(法五三条)、公平なものであることという換地原則の範囲内で広い裁量が認められている。そして、右換地処分をするにつき、右裁量の範囲を画する換地原則を逸脱すると認められる事情がある場合、特に行使の目的については、右換地原則と専ら異なった目的で裁量権を行使した場合は裁量権の濫用となる。しかしながら、道路用地の被買収者について、従前規模での農業経営ができなくなった者をそのまま放置することは、生産性の低下の防止、農業総生産の増大の観点から妥当でなく、被買収者の農業経営の維持を図ることも農業構造の改善に包含されると考えられ、本件処分が、右換地原則と専ら異なった目的で裁量権を行使した場合、すなわち他事考慮によって裁量権が行使された場合ということはできない。

四  従前地を実測しなかった違法について

本件処分をするに際しては、従前地の地積については昭和四四年一〇月一日時点の公簿面積を基準としたことは前記のとおりである。そして、既に、述べたように、土地改良事業を施行するについては、従前地の実測面積が判明している場合はこれを基準としてその計画、処分を行うのが合理的である。しかし、実測面積が判明していない場合、これを把握することは、その施行地域が広範囲である場合等においては、莫大な費用と労力を必要とし、また、計画の実施を著しく渋滞せしめる。また、法五三条一項二号は「当該換地及び従前の土地について、省令の定めるところにより、それぞれその用途、地積、土性、水利、傾斜、湿度その他の自然条件及び利用条件を総合的に勘案して、当該換地が照応していること」と定めており、地積は総合勘案されるべき一要素であり、独立かつ必須の要件とはされていないと解される。しかして、本件事業は、事業施行総面積は七九六・六ヘクタール、第三工区の総面積は三一九・二ヘクタールと広範囲にわたるものであり、かつ、実測面積も判明していなかったものであるところ、本件事業においては、従前地の地積については、事業計画の概要の段階で同年一一月三〇日現在の登記簿面積を基準とするとされており、事業参加資格者のうち九二パーセントがこれに賛成していたこと、本件地区の権利者は従前地を実測することを要求したが、大玉村村長により格差是正に努力するとの回答により右公簿面積を基準とする事業計画の概要に大多数が同意したものであること(控訴人らのうちでは控訴人酒井幸一、同佐藤一郎他二名が同意をしなかったが他の者は同意をしている。)、本件事業の委託を受けた大玉村村長は本件地区の権利者のうち従前地の登記簿面積と実測面積が著しく異なるものについては、換地委員に対して一時利用地、換地の配分割合につき配慮するように指導して、本件事業を進めたこと、本件地区の登記簿面積に対する換地率は一〇一・八八であり、他地区は一〇〇・〇六であったことが認められ、このような事情がある場合、同年一〇月一日の登記簿上の地積面積によるとして、実測をせずに、事業計画、換地計画を定めて換地をしたことに違法性はない。

五  結論

よって、原判決中、控訴人安記及び同孝雄に関する部分並びに同幸男の訴えのうち従前の地番福島県安達郡大玉村大山字並柳一四六番を除く大山字神王四番一他二九筆の土地に係る請求に関する部分は、右控訴人らの原告適格を認めた点において相当ではないからこれを取り消して控訴人安記及び同孝雄の訴え並びに同幸男の訴えのうち右請求に関する部分を却下することとし、控訴人幸男の従前の地番福島県安達郡大玉村大山字並柳一四六番に係る請求及び右三名以外のその余の控訴人らの請求は理由がなく原判決は相当であるので、控訴人幸男の控訴のうち右請求に関する部分及び同控訴人ら三名以外の控訴人らの控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 田口祐三 菅原崇)

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